接近～休息３～（跡宍） 2008/02/09 (Sat)

休息３話目。

すごい。久々に１日に２本もUP！

接近～休息３～（跡宍）

「宍戸。手前は少し残れ」
「…ああ？何でだよ」
「うるせえ。昨日は俺が言うこと聞いてやっただろうが」
「…フン」
連日のそんなやり取りに、忍足はもういい咎めたりしない。
その代わり、今日は鳳がオロオロとそんな二人を心配そうに見遣る。
「鳳、気にすんな。別に手前の大事な先輩を殴ったりはしねえよ」
あまりのうろたえっぷりに、跡部は流石に苦笑を洩らす。
「そうそう。こいつらこれでも仲イイんだから、心配スンなって」
そう言ってバンバンと鳳の背中を叩く岳人がどこまで知っているのだか。宍戸は派手に頬を染めた。

今朝跡部に風邪薬を飲ませてから、宍戸は跡部を避けまくっていた。
「お前、俺のことが好きで仕方ねーんだろ」などと、そんな事言われるなんて思ってもいなかった。
しかし、自分の行動を振り返ってみれば、成るほど、大好きな人を思い遣る女の子のような行動だ。その事に気づいてしまえば、照れくさくて顔など合わせられやしない。別に仲間の心配ぐらい皆するよな？と自分に言い聞かせても、それはどうだろう？と思う自分もいる。相手が他の奴らならば、こんなに気になったか怪しいものだ。

「おい、そこの馬鹿。百面相してねーでそこ座れ」
「はいっ！？」
急に声を掛けられて、返事する声がひっくり返る。慌てて見回せば、もう部室には二人きりだ。その状況に、益々頬が熱くなる。
「早く」
そんな宍戸を馬鹿にしたような眼で見た跡部は、逃げ腰になる宍戸の腕を取ると、夕べと同じソファに強引に座らせる。昨日とはまるで逆の立場だ。
「な、なんだよ」
驚いてすぐさま腰を浮かそうとする宍戸を押し留めるように、跡部はその膝にドサッと身を委ねる。
「跡部！」
「何だよ。うるせーな」
跡部は宍戸の膝を枕に横たわると、そのまま楽な体勢を見つけて瞳を閉じた。
「おい！」
昨夜は自分からそうさせたくせに。
跡部はフンっと鼻を鳴らすと、吐き捨てる。
「責任取れ」
「っ、何の！？」
「てめーが飲ませた薬のせいで、眠くてたまらなかったんだ。この俺様が授業中に居眠りなんかしちまっただろう。ったく、一日中逃げ回りやがって…」
一気に言い切ると、跡部は驚くような速さで眠りに落ちる。
夕べあれだけごねた奴とは思えない気の許しようだ。
「…跡部？」
小さく声をかけるが、仰向けに寝そべったその胸はもう緩やかに上下している。
「…マジかよ」
熟睡だ。
その無防備な寝顔を隠そうともせず、唇は安心しきったように綻んでいる。
きっと跡部は、眠気と戦いながら休み時間の度に宍戸を捜したのだろう。こうやって枕にするために。
宍戸は、跡部を起こさないように静かに息を吐いた。
「ったく、危ない所だったぜ」
照れくささのあまり必死に逃げ回った自分の行動は、正しかったのだと実感する。
もし、休み時間につかまってこんな風に枕にされてたら…。
「やば、ありえねェ」
宍戸は自分の頬を手のひらで包んだ。
見なくたって分かるくらいに火照っている。
心臓は、飛び出しそうなくらいドクドクいっている。
「あー、もう何なんだよ、俺」
好きだなんて。
今朝の、跡部のからかう様な笑みを思い出す。
「どうしちまったんだよ…」
宍戸は泣きそうな声で呟くと、自分の頭をぐしゃぐしゃと掻きむしった。