過去拍手17 2012/09/01 (Sat)

過去拍手17代目です。

リョ→不二・忍岳・リョ不二・跡宍の4本。

scene花の香り（リョ→不二）

5月の初め。暖かな雨の中。
通学路の脇にひっそりと咲いていた藤の花。
毎日通っているのにあの日だけ足を止めたのは、風に乗って届いた甘い香りの所為かも知れない。

誰が世話をしているのかも分からない、児童公園の片隅の藤棚。
雨粒を蓄え垂れる房はさほど長くなく、思わず伸ばした越前の指先は、その滴を弾くのが精一杯だった。

「越前。千切ったりしたら駄目だよ、可哀想だから。ね？」
前を行く不二が振り返り、子供の悪戯を咎めるように微笑む。
その瞬間揺れた栗色の髪は、漸く射し始めた陽の光に淡く輝いた。

「…そんな事しないっス」

小さく返し、直ぐに先輩たちの背を追ったが、後ろ髪を引かれるようなあの香りを越前はまだ覚えている。
主張しすぎない上品さを。

あの時、足を止めなければ気づかなかっただろうか。
その優しさを、絹の様な髪を、捕えてやまない甘い香りを。

「不二先輩、あんたはまるで、」
まるで、花のよう。

まだ届かない背に、そっと手を伸ばす。

 

scene廊下にて（忍岳）

小さく指先で呼ぶから、俺は、友達の輪を抜けて駆け寄った。
「何だよ、侑士」
休み時間。
廊下の窓際に寄りかかって立つ侑士は、少し不機嫌そうだ。
「別に、何でもあらへんけど」
そんな返事に「ふざけるな」って文句の一つでも言おうと思った矢先に、侑士は俺の身体をグイっと引っ張る。
ドスンって感じで侑士の胸元に顔から突っ込んで、額に当たったボタンが意外と痛いとか、ただでも高く無い鼻が益々潰れちゃうとか。

…まったく、もう。
「…どうしたんだよ、侑士」

「だから、何でも無い言うとるやろ。…ただ」

「ただ？」

「時々試す俺を、許したってな」

「はあ…？」

侑士の本音は、いつだって良く分からない。
今だって、何で侑士の機嫌が直ったのかなんて、俺にはちっとも分からない。

けど。
この広い胸は気持ちが良いから、小さな事はどうでもいいや。
通りすがりの宍戸が、呆れた様な溜め息零してたけど、どうでもいいや。

 

scene再愛（リョ不二）

「しー…」

何か企む様な越前の囁き。
素直に息を潜めた不二は、その瞬間認めてしまったのかもしれない。

「迎えに来てくれたってことは、…良いんだよね？」

伸ばされた腕が、躊躇う事なく不二の肩を引き寄せる。
「おかえり」も言わせて貰えない不二は、苦笑いで仰ぎ見た。
迫るのは、長めの前髪から覗く鋭い眦と、片端だけ上がった挑戦的な唇。

10年経っても変わらぬそのふてぶてしさ。
10年経って見違えたその逞しさ。
10年経って…。
経ったって…。

「会いたかった」

やっぱり先を越された不二は、素直に瞳を閉じる。

 

scene制服（跡宍）

静かに解かれたネクタイに、宍戸は知らず唾を呑んだ。
見慣れた指先は神経質なようでいて、その実諦めたような、投げやりな雰囲気を覗かせる。

跡部は、抜きとったネクタイを床に放り、宍戸のもとへ一歩近づく。

寛げた襟元が意味する事なんて、宍戸にはさっぱり分からない。
ただ、珍しくきっちりと着込んだ自分の制服が、急に窮屈に感じる。

だから、差し出された手に素直に身を委ねた。

シュッ、と小さく鋭い音を立て抜きとられるネクタイ。
思い出したかのように、宍戸の鼓動が走り出す。

「…いいんだな」
囁くような跡部の声は、答えなど端から聞く気も無いのか。

ねっとりと首を這う跡部の熱い舌。
宍戸は、声も無く背を震わせた。