真珠の泪（リョ不二） 2012/08/15 (Wed)

リョ不二。超短文です。

真珠の泪（リョ不二）
 

小さな音を立て置かれたティーカップが、いつも同じ柄だと気づいたのはいつだったろう。

―それは、俺専用である証し。

帰国すれば、2・3日経ってから鳴る携帯の着メロ。
出られたら出れば良い。面倒なら出なくても良い。「ちょっと手を離せなくて」という逃げ道を残してくれるそのメロディ。

―メールを打つのが苦手と小さく零したのは、もう随分前の話。

「…ありがとうございます」
俺の言葉に、
「え？その紅茶？それ、美味しいでしょ？」
不二先輩は、対面式のキッチンカウンターの向こうで嬉しそうに話を続ける。
「それ、手塚のお土産なんだよ」
報告する、その唇に。
「…そうじゃなくて」
急に俺の指先が唇に触れて、不二先輩は会話を止めた。というより、話す事が出来ないんだろう。俺は、自分が思う以上に、この唇から手塚部長の事を語られるのを快く感じていないようだ。
強引に指先でその唇を封じた。
「ありがとう、先輩。やっと気づいたよ」
カウンターを挟んだこの距離では、残念ながら口付けは出来ない。
せめてこれくらいは、と。動きを止めたその手を奪って、甲に小さくキスをした。

「ずっと想ってくれて、ありがとう」

驚いた瞳はしばらく動きを止め、それから大きく2回瞬くと、涙が頬を伝った。
真珠のような、とはあまりにもベタだけど。

「遅いよ…」
「うん、ごめん」

その滴が顎を伝い落ちる時には、もう、強く抱きしめる。