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過去拍手16代目。

忍岳・跡宍・リョ不二・千神の4本です。


sceneあのさ、愛してる(忍岳)
 

秋と冬の間の雨にしては、あまりに突然だった。
さっきまで晴れ間も見えていたはずの空は黒い雨雲に占領され、夏のコートの夕立を思い出す。
「やば、来るな」
侑士がそう言ったか言わないかのうちに、最初の一粒を頬に感じた。
「来た」
「戻るで、がっくん」
駆け出す侑士に俺も続く。

そして、つい先ほど鍵をかけたばかりの侑士のアパートにとって返した。
侑士は玄関先の傘立てに手を伸ばし、少し悩んでから手ごろな大きさのものを掴み取る。
「どう?」
そう言って広げた傘は、骨が1本、2本、3本…。
ああ、余りに多くて何本か分からなくなってしまった。
いわゆる「番傘」ってやつ?

その傘を広げた侑士は、くるりと回ってポーズを決める。
狭いアパートの通路で、チープなファッションショー?
振り返り、薄く微笑む眼鏡越しの流し眼。
俺は噴き出した。
「何や、笑う事ないやろ」
サービスショットやでェ、って。女じゃあるまいし。

―馬鹿だな、お前
―そんな傘、どうして持ってるんだよ
―洋服にそれってどうよ
―せめて浴衣なら

俺のマシンガントークはいつもの事。
侑士は笑って聞き流しながら、結局は普通の傘を広げて俺を引き寄せた。

―だからさ、相合傘じゃん、これじゃ
―荷物増えるって?たかだか傘の1本や2本
―すぐに止む?そうかもしれないけど

侑士は「はいはい」と、軽く相槌を打つといった具合で、俺の言う事なんかちっとも耳を貸さない。
ならさ。それならさ。

―同級生に見られたら恥ずかしくねェ?
―俺とならいいって?何だよそれ
―そのまんまの意味?ま、良いけど

だってさ、俺だってさ。

「あのさ、愛してるよ」

ああ、そうやなって。
流れで相槌を打った侑士が、慌てて振り向いた。

「もう一回言ってや!」
「やだよ」

お前が適当に往なすから悪いんだ。
お前の振り向きざまの流し眼が、カッコ良かったから…いけないんだ。



 

scene だから、愛してる(跡宍)
 

「おい、分かってるのか?」
宍戸のシャツの胸元を締めあげれば、跡部は痛そうな表情を浮かべ舌打ちをする。
「跡部!?」
宍戸は急な出来ごとに呼吸を乱し、酸素を求めるように仰いだ。
仰け反った宍戸の首筋に、跡部の視線は釘付けになる。

右の耳元から鎖骨へと続くライン。
シャツから覗く焼けた二の腕。
ラケットを取り落とした、その指先。

そこは、さっき鳳が触れた個所。
練習中に図らずも触れてしまった、宍戸の素肌。

跡部は順に口付けて、最後は強く抱きしめた。

「おい、分かってるのか?愛してるんだぜ」

火傷しそうな唇に強く眼を瞑れば、跡部は背を向けグラウンドへと戻っていく。

「跡部、」

不意に示された痛いほど熱い情愛。
宍戸は「ああ…」と声を零す。

―愛してるんだぜ

跡部の声が胸を焼いて、指先まで悦びに震える。



 

sceneだって、愛してる(リョ不二)
 

「不二先輩」
制服の裾を引かれ呼ぶ声に振り返れば、そこには越前の姿があった。
「どうしたんだい、越前?」
3年の教室が並ぶ廊下には似つかわしくない、まだまだ小柄なその姿。
自分だって小柄な部類に入る不二から見てもまだ小さなその姿は、それでも、誰より強い視線で不二を見上げる。
「どうしたの?」
そんな怖い眼で、とは言わないでおいた。
ともすれば不貞腐れている様に見える表情に、興味をそそられたから。

「先輩、外部の高校受験するって本当?」

「え?」

思ってもいない質問に、不二は一瞬眼を丸くした。
越前の声は決して大きくは無いが、珍しい組み合わせは休み時間中の同級生の眼を集めていたようで、聞き耳を立てていた周りも驚きの表情だ。

「ねえ、本当なの?」

先輩に対する物の聞き方ではないな、と。咎めるのは2年の海堂と桃城くらいだろうか。
尋ねられた本人は別段気にするでもなく、その表情を笑顔に変える。

「それは誰から聞いた噂話かな?僕はそのつもりないけど」
そう答えると、見る見るうちに越前の表情の強張りが溶け、ほっとしたように瞳を細める。

「…なんだ。それならいいんだ」

そして、急に居心地悪そうに視線を落とした越前は、掴んだ制服の裾を手放す。そこには少し皺が残ってしまった。
随分緊張していたのか、思ったよりも強く握りこんでいたらしい。
立ち去るタイミングを失った越前に、不二の好奇心が顔を覗かせる。

「ねえ、どうしてそんな事が気になるんだい?」

囁くように問い掛け、少しかがんで覗きこめば、片耳に掛けた髪がさらりと落ちた。
窓から差し込む光に透けて、ただでも明るい髪色が益々透明度を増す。
その甘いブラウンに誘われるように、越前はそっと指先を伸ばした。

「…だって、愛してる」

「…え?」

触れる髪先。
そっと握りこめば、越前は、その艶めく束に唇を寄せる。

「越前っ!」

焦る不二の声。
それと同時に鳴り響く予鈴に、時が動き出した。
事の成り行きを窺っていた同級生は、我に返ったように慌てて各々の教室へと戻っていく。

「不二先輩。そういう事だから」
「越前…」
残された二人は見つめ合い、そして越前が先に視線を逸らす。

「そういう事だから」
もう一度呟くと、不二の脇をするりと抜けて走り去っていく。

「そんな、」

どういう意味?なんて聞けやしなかった。
強い視線には溢れんばかりの感情が込められ、不二は一瞬にして捕らわれた。
最後に眩しそうに細めた眼差しが、眼の裏に焼きついて残る。

―だって、愛してる。

越前の声が、耳の奥でリフレーンする。



 

scene あのね、愛してる(千神)
 

急に振り出した雨に、千石さんは天を見上げた。
胸元で掌を広げ雨粒を受ければ、小さく肩を竦める。
「本降りになりそうだ」
おどけるような表情が何だか絵になって、俺は思わず見とれてしまう。
「さあ神尾くん、ぼーっとしてないで。あそこまで走るよ」
千石さんが指差すのは、今日はお休みの本屋の軒先。
多少足元は濡れても、激しい雨をやり過ごすことぐらい出来そうだ。
これからの事を考えるのは、その後でいい。
俺たちは勢い良く掛け出した。

千石さんのキャメルの革靴が、滴を弾く。
俺のスニーカーも、出来始めた水たまりを跳ね上げ走る。

突然の雨に、同じように慌てて掛け出す女性を避けたら、俺は少しふら付いた。
千石さんがそんな俺を振り返り、慌てたように強く手を取り引き寄せる。

大丈夫?と、声も無く唇が問う。
俺が頷くと千石さんは微笑み、目尻に優しい皺が寄った。

そうして駆け込んだ軒先の下。
濡れた前髪を掻き上げる千石さん。

「あのね、愛してる」

思わず呟けば、千石さんはひょいと眉を上げ破顔した。

「ん。知ってる」

俺も笑った。

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