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望み(跡×宍)
	「なあ!いいだろ?ちょっとだけだからよ!」
	そう言って、着替え中の跡部の背中に手を合わせるのは、泣く子も黙るという噂(?)の宍戸だ。
	ぶっきら棒で目付きの悪い、あの宍戸だ。
	見守る仲間たちはもう見慣れたもので、最初は驚き、ただでも大きな眼を零れ落ちんばかりに見開いて瞬きを忘れた岳人も、今では生温い視線をちらりと投げる程度だ。
	「…人間開き直ると怖いよな」
	まったく相手にしようとしない跡部に根気強く話し掛ける宍戸の表情は、まるで「尻に敷かれた旦那」といったところで、さすがに憐れんだ忍足が口を挟む。
	「で?今日は何を訴えとるんや、宍戸?」
	宍戸は、額の高さで拝む様に合わせる両手はそのままに、視線も寄こさずそれに答える。
	「あ?跡部の部屋に行ってみたいな~って頼んでるんだ。だって!ジローは先週遊びに行ったって言うんだぜ!俺だって…」
	「うるせえ!」
	まだ言い足りない様な宍戸の言葉を遮ったのは、我慢も限界といった感じの跡部だった。
	「跡部さん」
	心配そうに声を掛ける樺地に、跡部は振り返る。
	「今すぐ車を呼べ。うるさくて敵わないから、さっさと連れてく」
	「ウス」
	携帯を手に樺地が部室の外に消えれば、宍戸は「よっしゃ!」と拳を突き上げる。
	俺も行く~と縋りつくジローを両手で突っぱねて、宍戸は嬉しそうに眼を細めた。
	「今日は俺だけ!な?跡部?」
	天真爛漫な宍戸の笑顔に跡部が一瞬固まった事を、部室に居合わせた何人が気づけただろうか。
	「…勝手にしろ」
	言い捨て、颯爽と部室を後にする背中を、宍戸が慌てて追いかけて行く。
	「じゃ、お先!」
	残された疲労感の漂う静寂の中、忍足と滝は視線を合わせ苦笑した。
	跡部への好意を宍戸が隠さなくなったのは、一体いつからだろうか?
	中学時代の跡部対手塚戦の後だろうか?いや、跡部対越前戦の後じゃなかったか。
	それぞれが曖昧な記憶を口にする中、皆が共通して覚えているのはあの笑顔だ。
	― 跡部、やっぱお前ってスゲェわ!
	そう言って宍戸は、パァっと雲が晴れる様な、そんな笑顔を見せたのだ。
	あんな風に笑える奴だったのか、と。
	仲間に見せる悪ガキの様な笑みではない。後輩に向ける頼れる兄貴の微笑みでもない。
	ただ子供のように、眉を高く上げ眼を輝かせ、満面の笑みで跡部を褒めちぎった。
	あの時は流石の跡部も面食らった様で、きょとんとしていたのが新鮮だった。
	それ以降も、二人は相変わらず喧嘩する、宍戸は跡部に食って掛かる。
	それでも、宍戸の想いが真っ直ぐに跡部に向かっているのは誰の目からも明らかだった。
	あの鳳が、何も言えずただ悲しそうに微笑んだのを見て、それは夢でも何でもないと、仲間たちは漸く現実を受け入れた。
	「うわ、何だよこれ、本ばっか」
	「テレビでかっ!これでゲームやったら超迫力あんな」
	「…この趣味はどうかと思うぜ?フリルはやめとけ、フリルは」
	部屋を見て回っては、言いたい事を言う宍戸を、跡部は放ったままデスクに向かった。
	ジローの時もそうだった。別に相手をしてやらなくても、勝手に騒ぎ、笑い、挙げ句の果てには跡部のベッドのど真ん中で寝入っていた。
	「なあ跡部、これは?」
	「蓄音機だ」
	「へェ、聴けるの?」
	「聴けるけど、触るなよ。繊細なんだからな」
	「へいへーい」
	素直に返事をしてしまう自分に、跡部は大きくため息を吐く。
	パソコンを立ち上げてみたって、本当は何も頭には入って来ない。
	楽しそうな宍戸の声に、自然と緩む頬を何度強引に引き締めたことだろう。期待に弾む鼓動を抑えようと、何度深呼吸しただろう。
	「…宍戸、夕飯食っていくだろう?」
	自然に、自然にと。跡部はらしくも無く慎重に口を開いた。
	ジローには、そこまでしてやらなかった。してやるまでもなく勝手に寝入ってしまったのはジローだから、使用人に車で自宅まで送らせたのだ。
	「マジ?良いのか?迷惑じゃねえ?」
	「今更何言ってやがる」
	「ま、そうだけどよ」
	じゃあ頂くわ、と言った宍戸は、急に思い出したように腹をさすり「そういや、腹減ったな」と笑う。
	跡部は口の端を上げるだけで返すと、またキーボードに視線を落とした。
	どうせ何もできないくせに、それらしく指だけ添えてみる。
	一体いつから、どうして急に、あんなに無垢な笑顔を向ける様になったのか。
	はっきりいつからとは覚えていないが、宍戸が初めて見せた本物の笑みに跡部は一瞬にして囚われてしまった。
	最初は歯向かう振りして気を引いて、全く忠告を聞かず生意気で。それを急に掌返したように笑い掛け、懐に飛び込んでくるような真似をするから。宍戸のくせに、宍戸如きが姑息な事を。…などと、宍戸がそんな駆け引きが出来ない事は、部長である跡部が誰より分かっている。
	本当は、まったくいけ好かない奴だったのに。
	―最初から、気になる存在だった。
	こんな庶民が、自分とつりあう訳がない、住む世界が違うと思っていた。
	―「跡部」の名に媚びないどころか、盾突いてくる存在が嬉しくて。
	「…ああ」
	零れた吐息に、宍戸が「どうした?」と振り返る。
	「いや、何でも無い」
	そう、最初から惹かれていたのは跡部の方だった。恐らく宍戸よりももっと早くから、この想いを抱えていたのに。
	「顔、赤いぜ?」
	急に近くで聞こえた声に、跡部はビクリと肩を揺らした。
	いつの間にか、すぐ脇に宍戸が立ちパソコンを覗きこんでいる。
	「何だよ、何も打ってねェじゃん」
	「うるせェ!」
	跡部は慌ててノートパソコンを閉じると、荒々しく腰を上げた。
	「跡部?」
	「食堂行くぞ」
	「お、おう」
	…素直になれない。
	跡部は、またひとつ息を吐いた。
	慣れないフランス料理も二人きりの食事となれば緊張もしないのか、それは豪快に平らげた宍戸は満足そうにベッドに寝転んだ。
	「もう腹いっぱい!超旨かった~」
	「喜んでもらえて何よりだ」
	「おう、本当にご馳走様でした」
	「ああ」
	満足そうなのは宍戸だけではない、挨拶に顔を覗かせたシェフも、宍戸の喜びようにそれは嬉しそうに微笑んだ。
	そして跡部も。
	あの、前菜のムースみたいのが超旨くて、牛肉の柔らかさはあり得ないだとか。
	指折り思い出しては興奮冷めやらぬ宍戸の姿に、込み上げる想いが暖かく全身を満たして、跡部は自然に笑みが零れた。
	まだこの想いを曝け出す覚悟は無いけれど、無防備に横たわる宍戸の寛いだ姿に、つい甘ったるい未来を想像してしまった跡部は、戒めるように拳を握る。
	でも、掌に強く爪を立てたところで、それは胸の甘い喘ぎと相まって、溢れ出る期待感を増幅させるだけだ。
	宍戸がベッドの上からその姿を盗み見れば、背中越しにほんの少し確認できる端正な横顔が意外と穏やかで、小さく胸を撫で下ろすのと同時に淡い期待が頭を掠める。
	帰れと、言わないで欲しい。
	じゃあどうして欲しいのかなんて、はっきりとした答えは無いけれど、ただ自分と同じようにこの時が続けばいいのにと思って欲しい。
	何で一日はこんなにも短いのだろう。
	何で俺達は学生なのだろう。
	大人ならば、こういう時どうするのだろう。
	ただ一緒にくだらない話をして、時々笑って、それだけの時間がずっと、ずっと続いて欲しいだけなのだ。
	「跡部」
	重ねた指の隙間から見える天井は、宍戸の家より全然高くて、細かな装飾が施されている。それが作り出す淡く幻想的な陰影が、内に溢れて宍戸自身を戸惑わせる何かを益々大きくさせる。
	「どうした?」
	ベッドに横たわる宍戸のもとに膝立ちで近づいた跡部は、宍戸が自分の顔を覆う両の指の隙間から、ちゃんと宍戸の瞳を見つめて問う。
	おざなりの返事をしてくれればいいのに。
	丁寧に探った視線を捉えて、跡部はもう一度「どうした」と問うから。
	「どうしたんだろうな」
	「…宍戸?」
	「どうしちゃったんだろう、俺」
	「何、が?」
	跡部の喉が不意に張り付くように言葉に詰まるから、宍戸もつられて緊張してしまう。
	「どうしたいんだろう、俺達」
	そっとベッドの上を滑らせた指先を、跡部はその途を塞ぐように握りこんだ。
	あらわになった宍戸の表情に、跡部は何を思ったのか。
	「宍戸の望むままに」
	宍戸自身も分からぬ答えを跡部はまるで全て悟ったように、淡く微笑み、その影が宍戸の上にゆっくりと落ちて行く。
	望むままに?
	一瞬悩んでから伸ばした両手。
	その腕が跡部の背に絡んだ瞬間の、跡部の泣き出しそうな表情を、宍戸は眦でとらえてホッとする。
	そう、きっと同じ想い。
跡部の、望むままに。
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