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乾×不二、跡×宍、塚×不二の3本です。

scene泣かないで(乾×不二)


放課後。
二人きりの部室。
今の俺の話のどこにそんな要素があったのかは分からない。
ただ笑って振り返れば、不二は大きな涙の滴を、白く滑らかな頬に転がせていた。
あれ?という顔をして、慌てて拭おうとする不二の手は、まだ着替えの途中で自由に成らない。

いや、その。それは、ちょ…、まって。

自分でも良く分からない言葉が口をつく。
それは不二に対してだったのか、俺自身を自制する言葉だったのか。
後者ならば、残念ながら役には立たなかった。

「泣くな、不二」

気づけば、その華奢な身体を抱き寄せていた。
悲しくて泣いているのかも分からないのに。
可笑しくて泣いているのなら、俺はとんだ笑い者だ。
でも、さっきの話に笑える要素は一つも無かったはず。

引き寄せた肩はユニフォームを脱ぎかけた素肌で、もう、今までの見ない振りが無駄な努力と化した。

「泣かないでくれ」

その額に、瞼に。
その頬に、その…唇に。
優しく優しく、口づける。

すまない。
こんな涼しげな顔をして、実は誰よりもお前に触れたかった。

 


scene真っ直ぐ(跡×宍)


ひくっ、ひっく…としゃくり上げる声に、跡部は天井を仰いだ。
ガキとは、こんなにも厄介な生き物だったか。

「俺!女じゃねェからっ」

そんな事は分かりきっている。
同じ年齢の子供から比べればまだ小柄かもしれないけれど、友を、大事な人を思いやる気持ちとその男気は、大人の男性にも引けを取らない。
むしろ、目が曇って保身にばかり走る厭らしい大人は、この宍戸亮を見習えと言いたくなる。
それくらいに宍戸は「男」だ。そんな事は重々承知だ。

「何かあげられないか?女じゃねェから嫌か?気持ち悪いか?でも、俺…」

駄目だ。それ以上口を開いてはいけない。

「なあ、跡部!でも俺、跡部がいいんだ!俺、お前が…」
「宍戸っ」

跡部の強い口調に、宍戸は言葉を呑む。かわりにぽろぽろと涙が零れ落ちた。
大きく首を振って、跡部はゆっくり振り返る。

大事な生徒だ。
慣れない初めての教壇で、一番最初に質問をしてくれた宍戸。
生意気な態度も、まだ大きすぎる制服の所為か、ただただ可愛いだけだった。
みんな同じ。それぞれが可愛い教え子なはずなのに。

「ったく、どうしてくれるんだよ」

跡部は小さく吐き捨てて、立ちつくす宍戸のもとに歩み戻る。
そして、とうとう強く抱きしめた。

少年と青年の間の身体は、何だか折れてしまいそうに細くて、猶の事その腕に力が籠る。

離したくない。逃がしたくない。

子供なんて冷たいものだ。興味が薄れれば自分の方があっさりと捨てられるのは目に見えている。
それでも、跡部はもう我慢が出来なかった。

「良いんだな?もう離さないからな。意味分かってるのか?」

「…分かってる!」

宍戸は、成長途中のひょろ長い腕で、必死に跡部に抱きついた。

「いや、お前は分かっていない…」

でも、いいのだ。
訪れる危機もきっと握りつぶす。
自分はそういう人間だと、跡部は痛いほど良く分かっていた。

「お前は、俺のものだ…」

初めて耳にする、教師ではない一人の男、跡部景吾としての言葉。
宍戸は、まだ幼い胸を甘く震わせた。

 


scene破壊的微笑(塚×不二)


「ねえ、僕聞いてないけど」
顔は笑みを浮かべていても、声は明らかに尖っている。
それに気付かぬ振りをして、手塚は顔も上げずに答えた。
「…何だ、藪から棒に」
「何だ、じゃないよ。文化祭の事」
「…ああ」
来るだろうなとは思っていたが、皆が帰ってから話を切り出すあたりが不二らしく、手塚は思わずこぼれそうになる笑いをやっとの思いで呑みこんだ。
「何で僕がテニス部代表してミスコンに出なきゃいけない訳?最初は越前にって言ってたじゃないか」
文化祭委員からは、越前か不二に是非出場願いたいとアポが来ていたのだ。
だから、学年順に年上の不二から声を掛け、続いて越前にも声を掛けたのだが…。
「役員と一緒に勧誘に行った時は嫌がっていなかっただろう?」
「そりゃ、向こうも仕事だろうから、あからさまに嫌そうな顔するのもどうかな…って。でも、承諾した覚えはないよ?」
「残念ながら、越前にはあからさまに嫌な顔をされてな。けんもほろろに断られたんだ」
「なら、僕だって嫌だよ」
「どうしてその時にはっきりと言わない。役員たちは流石不二先輩は器がでかいと大喜びだったぞ。今さら断れるのか?」
「…」
どうせ無理だろうという口振りに、不二は腹立たしげに大きく息を呑むが、結局何も言わずに押し黙った。
「お前の悪い癖だ。相手を落胆させたくない気持ちは分かるが、それならそれなりの責任は取れ。わかったな?」
手塚はシャーペンを置くと、書き終えた部誌で不二の頭をこつんと叩いた。
「早く着替えろ。竜崎先生にこれ届けて来るから、それまでに帰る準備しておけよ?」
まるで相手にしない手塚に、不二は慌てて声を上げる。

「女装なんてしたら、僕モテちゃうかも!…いいの?」

思わぬ言葉に、手塚は足を止めて振り返る。
何を言い出すんだというような手塚の表情が益々癪に障って、不二は頬を紅潮させる。

「誘われちゃうかも!浮気しちゃうかもしれないよ!」

「…不二」
完全に、駄々をこねる子供に、困ったように見下ろす大人の構図。

「聞いてる!?」
引っ込みが付かない不二は、足音を荒立てて詰め寄った。

「まったく…」
手塚は、わざとらしくため息をついて見せる。

モテるのなんて今更の事。知らぬは本人ばかりなのだ。
浮気だなんて、可愛い事を。
…なんて感情は微塵も見せず、手塚はいつものポーカーフェイスで切り捨てた。

「浮気なんてさせるものか」

そして、不二を覗きこむ。きっとチームメイトも知らない挑発的な手塚の微笑。

「お前には…俺だけだろう?」
「!!」

もう、それだけでもう十分だ。

「戻った時に着替え終わってなければ、置いて帰るからな」
手塚は、固まる不二の頬を優しく撫でて、部室の扉を閉める。
不二は、あまりの衝撃に動けない。
そう、いつもここぞという時に見せる、破壊的に甘い微笑み。
「…ずるい」
そうして、不二はいつでも手塚の思い通りだ。
「だって、カッコ良すぎだよ…」

へたり込む不二を、手塚が呆れて抱き起こすのは、10分後のお話。

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