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安らかな眠り(跡×宍)
青学に敗れた後のバスは、沈黙に包まれている。
悔し泣きに暮れた日吉は、頭からジャージを被ってぴくりとも動かない。忍足と岳人は、隣り合っているのに一言も口を利かず、ただ外の景色を眺めている。
ジローの気持ち良さそうな寝息のお陰で、俺たちは何とか呼吸が出来ていた。それくらい、物音一つ立てられないような緊張感だ。
レギュラー陣だけのバスというのは、こういう時に不便だなと思ってしまう。まあ、来る時は負ける事など考えないけどな。
そんな中、跡部は真っ直ぐ前を向いて口を結んでいる。
自分の手で倒した手塚の事でも考えているのだろうか?あれだけの試合を制したというのに、跡部はちっとも嬉しそうではなかった。
結果的に手塚の肩を壊してしまった事を後悔しているとか?いや、跡部はそういう男ではない。あれは互いのプライドを掛けた、全国への思いを掛けた、素晴らしい試合だった。恥じる事は何も無い。
俺は目を瞑り、長い溜息を吐いて深くシートに腰掛ける。
学校へ着いた頃にはもう辺りは暗くなっていた。
俺たちは、積み帰った荷物を黙々と運び、あっという間に片付いてしまう。
最後のボール籠を仕舞いこんだら、長太郎も救急箱を片付け終わったところのようだ。
「…帰るか、長太郎」
「いいんですか?いつもなら練習していくのに」
確かに、いつもの公式試合の後なら、夜間使用の許可を得て練習をして帰る。
「今日は流石にな。長太郎もゆっくり休め」
「そうですね」
俺たちは、自分らの荷物を担ぐと部室を出る。
自転車通学の岳人やジローはもう帰宅したようだ。すれ違うのは準レギュラーや、その他の部員ばかり。
挨拶を寄こす後輩に上の空で返事を返しながら、校門を出ようとした時だった。
「おい、宍戸」
暗闇から呼ぶ声がする。
「…跡部?」
その声は、先ほどから姿の見えなかった跡部だった。
まだ職員室で榊先生とミーティングをしていると思ってたのに…。
「ちょっと付き合え」
「あ?お前、もう帰れるのか?」
「ミーティングはついさっき終わった」
「そうか」
跡部が俺に声を掛けるなんてめったにある事ではない。
ただの部長と部員、それだけの関係だ。一緒に登下校したり、休日に会ったりという事は一度もないのだが。
「悪い、長太郎。先帰ってくれ」
「あ、はい。では失礼します。宍戸さん、跡部部長」
長太郎は焦ったように頭を下げると、そそくさとその場を去っていく。
「なーに、焦ってんだか」
その背中に俺が苦笑すると、跡部も小さく喉を鳴らした。
「見慣れない2ショットが不気味だったんだろ?」
「…そう思うなら、何で声掛けたんだよ」
俺は呆れて、跡部の後に続いた。
跡部家の車に乗って辿り着いたのは、跡部の屋敷だった。
練習や合宿で何度か訪れたことがあるが、相変わらずバカげた広さだ。
前を行く跡部は、何も言わずに歩いて行く。
建物の中に入ったということは、テニスではないようだ。
「…ったく」
俺は仕方なく追いかけるだけだ。
跡部は日ごろから、練習の最中はべらべら話すくせして肝心な事は口にしない。
人の事ばかりで、自分の事は一切口にしないのだ。
普通、何で連れて来たかくらい言うもんだろう?
まったく、疲れてるってのに何をさせる気だ?というか、俺よりよっぽど跡部の方が疲れているはずだ。対手塚戦というのも然ることながら、試合の長さが尋常ではなかったんだから。
「跡部…」
跡部の背中は、やはり相当に疲れて見える。
さっきまでは夜空の下だったから気付かなかったが、屋敷の明かりの下では隠しようもない。
「入れ」
大きな扉を押すと、宍戸は初めて俺を振り返った。
「あ?ああ」
ここが跡部の部屋か。
俺は促されるまま、その部屋に足を踏み入れた。
「悪いな。連れて来たくせに何もなくて」
「いや、それは良いけど…」
跡部は備え付けの冷蔵庫の中からペットボトルを2本出すと、テーブルの上に置いた。
バスの中で軽い食事は済ませたお陰で、腹は減ってないからいいのだが…。
「お前、大丈夫か?」
声を掛けても返事は無く、跡部はゆらりと部屋の奥まで進み、どさっとベッドに倒れこむ。
「おい!」
制服を脱ぐことすら辛そうな疲労度だ。俺は思わず駆け寄った。
「バカだな。そんな疲れてるなら、何で俺を連れて来たんだよ」
特別気心が知れている訳でもない。仲の良さなら滝や忍足の方が上だろうに。
「宍戸…」
「ああ?とにかくお前、制服くらい脱げよ」
「…へえ、脱がせてくれるのか?」
からかう様な声音に、俺は呆れて言い返す。
「何笑ってるんだよ。出来ないならマジで手伝うぜ?」
「随分、大胆なんだな?」
「ああ?何言ってんだ」
まったく、こんな姿で何を言ってるんだか。カッコつけて笑ったところでボロボロじゃないか。
「ほら、頑張って一度起きろよ」
手を差し出すと、跡部はニヤリと笑って握り返した。
「お、わっ!」
掴んだ瞬間、跡部は強く俺の手を引く。俺は不意を突かれて跡部の上に倒れこんだ。
「痛てェな…」
「バカが!お前が悪いんだろうが」
ったくバツが悪いったら。跡部とこんな密着するなんて、何だか焦ってしまう。これが岳人やジローなら「バカ!」と笑い合って終わるのに。
「ほら、遊んでないで早く離せよ」
「誰が遊びだなんて言った?」
「…あ?」
跡部は、手を離すどころか、さらに強く俺を引く。
「っ!」
支えた肘が崩れて、俺は跡部の胸に顔を埋める形になる。
「遊びじゃねえよ、本気だ」
「跡部!?」
強引に体を返された。
あっという間に、俺が押し倒されている。
「…お前、何がしたいんだよ」
「余裕だな?このままヤられちまうとか考えないのか?」
喉で嗤う跡部の前髪が、さらりとその額を覆った。
「お前が?俺を?バカな。んな興味もないくせに」
男同士とか、そういう事以前の話だ。こいつが俺にそういう興味を持っている素振りなど、一度だって見た事がないからな。
「…手前は、だから鈍いってんだ」
「ああ?鈍くねえよ!」
「鈍いさ」
ムッとした口調で言うと、跡部は俺の首元に顔を埋めた。
「っ!」
まさか、嘘だろう?
跡部が俺に個人的な興味を持ったことなど一度だって無い筈だ。だって俺は少しも感じた事がない。世間話のひとつだってしたことがないんだ。
「どうして、そういう想いもあるとは思わない?」
「嘘、だろ?」
「…ふん。精々そうやって逃げ回ってろ。すぐに捕まえてやるから」
「跡部…」
拗ねた口調が、胸の奥を鷲掴む。
そんな…。こんな跡部は知らない。
こんな、弱い姿を晒して、必死の力で俺なんかを拘束する跡部を、俺は知らない。
「でも、今は」
「え…?」
「今は、寝かせろ…」
「な?」
「…傍にいろよ?」
「跡部!?」
すうっ…と電池が切れたように、跡部は瞳を閉じた。
「おい!」
その手は、俺の手を掴んで離さない。
何て無理な体勢で…。なのに、なんて気持ち良さそうに…。
「ったく」
俺は跡部に拘束されたまま、強引にその体をベッドに寝かせてやる。
ちゃんと枕に頭を乗せて、蒲団を掛けて。
制服が皺になるのは、もう仕方がない。こいつが離れないんだから。
「…俺もかよ」
結局、このままでは俺も横になるしかなさそうだ。
こんなふかふかなベッドで、眠らないのは損な気さえする。
「跡部、明日ゆっくり聞かせてもらうからな」
こんな悪ふざけ、俺は信じないぜ?裏があるんだろう?
隣に横たわりその顔を覗き込むと、長い睫毛が印象的だ。疲れの所為か、濃い隈が痛々しい。
「ゆっくり、寝ろ…」
言いながら、俺も眠りに落ちる。
なあ、跡部。
本当は跡部の素顔が見れて嬉しいだなんて、それは、お前には内緒だ。
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