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決断の時の番外編。

千神でしっとりと。でも、そこはかとなく黒さを醸し出す千石さん。ウチの基本です♪
 


決断の時 番外編(千×神)
~猫宍シリーズ27~


足を止めると、少し後ろで神尾くんも立ち止まった。
「ほら、おいで?」
振り向き手を差し出せば、神尾くんは照れたように笑って小走りに駆け寄る。
跡部家からの帰り道、不動峰のメンバーは気を利かせて俺達を二人きりにしてくれた。というか、面倒事は御免ってのが本当のところなのかな。
何にしても、俺にとっては願ってもないひと時だ。
神尾くんは、遠慮がちに俺の手を握る。
「もっと」
神尾くんを引き寄せた。戸惑う腕を、俺の腕に絡める。
「千石さん…」
俯く頬はきっと赤らんでいるんだろう。暗くて見えないのが残念。

神尾くんは意地っ張りで、俺が思う以上に常識人だった。
神尾くんは俺が嫌いになったのでも、最後まで結ばれるのが嫌だった訳でもない。怖い、ってのはあるかもしれないけど、それよりも仲間の目が気になってたんだ。
俺は、自分が決めた事は周りに何と言われようと貫くから、神尾くんみたいなタイプの子がこんなに思い悩むなんて想像も出来なかった。本気で嫌われたかも…ってショックだったし、何より、そのまま気づかなきゃ、いずれ別れる羽目になってたかもしれない。
恋愛って一人でするもんじゃないんだよなって、今更ながら思い知らされた。

「ねえ、神尾くん。ちょっと座ろうか?」
俺は公園のベンチを指差す。
「うん」
神尾くんは小さく頷いた。
ここは神尾くん家から少し離れた所にある公園で、いつも別れがたい俺はここで神尾くんを抱きしめる。上手い具合に植えられた木は、冬場でも通りからの視界を遮ってくれて、葉が落ちた後でも神尾くんは周りを気にせず抱きしめられてくれる、貴重な場所だった。
隣に腰をおろした神尾くんは、いつもの距離を保ち何だか居心地悪そうにして落ち着かない。昨日までの俺は、それを「一緒にいるのが嫌なのかな?」って疑ってたけど。でも違ったんだね。
「もっとこっちにおいで?」
そう言いながらも、俺は待ちきれずに、自分から近づいてしまう。
神尾くんは驚いたように唇を開きかけたが、そのまま噤み、そして微かにはにかんだ。
今までは、常識との葛藤で素直になれなかったみたいだけど、もう大丈夫だよね?何てったって、一番の仲間たちがあんな笑顔で祝福してくれたんだ。
そろそろ、いいよね?
俺は、俯く表情を覗き込むようにして、唇を奪う。今までとは違う濃厚な口づけに、神尾くんは驚いて腰を浮かせそうになる。
俺はそんな神尾くんを強く抱きしめて押し留めた。
「…あ、ン」
慣れないキスに、神尾くんは空気を求めて喘いだ。そんな姿が可愛くて、俺はすぐに許してしまう。
「怖かった?」
「…怖くはない。恥ずかしいけど」
神尾くんは頬を染めた。それが分かるほど近づけた事実に、胸が甘く締め付けられる。
「ねえ、ゆっくりでいいんだ。神尾くんのペースで構わないから、だから…」
「…?」
子供みたい。ぽかんと口を開けてる神尾くんの頬を両手で包んだ。
「ずっと、俺と一緒にいて?これからもずっと」
俺の言葉に、神尾くんの瞳が見る見るうちに潤んでいく。
「い、いの?俺、人の目ばっか気になって、千石さんのことガッカリさせてたの分かってたよ?でもまだ、千石さんみたいに強くなれないよ…」
思った以上に悩ませていたみたいだ。あの仏頂面の裏に、こんな繊細な心を抱えてただなんて、俺はちっとも気付かなかった。
「いいんだ、神尾くんの望むままに。だって、無理したって辛いだけでしょ?そんな神尾くん俺は見たくない」
「…ごめんなさい」
神尾くんの頬を涙が伝う。
俺は、それを指先で拭った。
「ごめん、じゃないよ。ありがとう、だろ?」
俺の言葉に、また涙が零れる。
「仕方ないなぁ、じゃあ、とっておきのモノあげる。そしたら泣きやんでね?」
「とっておき?」
「そ。ちょっと待ってね」
俺は斜め掛けのカバンから、小さな包みを取り出す。
「今日はホワイトデーだよ?気づいてた?」
神尾くんは、小さく頷く。
俺は包みを剥ぐと、天鵝絨の蓋を丁寧に開ける。
「っ、」
神尾くんが息を呑んだ。
俺はその手を捕まえて、夜の空気に冷えてしまった指に煌めく環を通す。そして、自分の指にも揃いのリングを嵌めた。
「そんな…」
「重いってさ、跡部くんに苦笑されたよ」
「千石さ…」
「分かってるよ」
言いかけるのを遮って、俺は続ける。
「まだ中学生だし、こんなの子供の約束には行き過ぎだって。でもね神尾くん。信じられないかもしれないけど、俺、一生神尾くんと生きてくって決めてるんだよ。ねえ、嫌?」
「い、嫌じゃない!」
神尾くんは大きく首を振った。
「良かった~」
「で、でも。俺、まだ成長するよ?こんな綺麗なのに、きっとすぐキツクなっちゃう」
「そしたら、またプレゼントする」
冷たい神尾くんの手を包み込むように握り、俺は宣言する。
「そんなことしたら、千石さんお金無くなっちゃうよ?」
「へーき。俺、結構稼いでるんだから」
「嘘ばっか。中学生のくせに」
「へへっ」
本気にしない神尾くんを、俺は敢えて訂正しなかった。意外とね、俺のラッキーって小遣い稼ぎになるんだよ。
実は、跡部くんが「重い」といった理由。それはペアリングってのもあるけれど、何よりその値段だったんだよね。
シルバーもプラチナも見分けのつかない神尾くんは、その手を夜空に翳して「綺麗」と呟いた。
いつかこの価値を知った時、神尾くんは俺の本気に恐れをなすのかな?
そしてきっと、生真面目な神尾くんは俺を選ばざるを得ないだろう。
俺は、嬉しそうに笑う神尾くんを、強く抱きしめる。
絶対、離してあげないんだから。

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