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前日、前々日アップ済み「言葉にして1・2」の続きです。
不二は手塚の大きな手で抱き寄せられながら、園内の外れにある植物園を目指していた。裏手には庭園も整備されているというので、ついでに散歩していこうと手塚は優しく不二の髪を梳く。
手塚を上手い事言いくるめて付き合い始めてから1年以上。
正直、気持ちの通じ合わない関係がこんなにも自分を苦しめるとは思ってもいなかった。
一部の部員(主に乾)からは、腹黒だの目的のためなら手段を選ばない人間だの好き勝手に言われてきたし、当てはまる部分は多々あるのであえて否定もしてこなかった自分だが、相手が手塚となるとどうしても臆病になる。
最初ばかりは気長に落としてやろうじゃない…と余裕ぶって構えていたけれど。
手塚はテニス以外のことを話さない。
デートに誘うのも僕から。
電話を掛けるのだって…。
だから、もう終わりにしようと決めたのだ。
都大会が始まるまでの約1週間。それまでに手塚が僕を好きだと言ってくれないようなら、もう彼を解放してあげよう、と。
義理堅い手塚のことだから、僕の誘いに乗って付き合い始めたこの関係を、気が変わったからお終いにしようとは絶対に言い出さない。
後1年、希望としてはそれ以降だって一緒にテニスをやっていきたいのだ。
まだ間に合う。
今『友達』『部活仲間』に戻ればずっと一緒にテニスを通じて手塚の近くに居られる可能性はある。
でも、恋人はダメなのだ。
いつかきっと終わりがくる。
そうしたら、今後手塚の近くに居られる確率は限りなく0に近い…。
ここ1ヶ月ほど、英二も巻き込んで、あえて手塚と距離をおいてみた。
どんなに迷惑がられても手塚のそばを離れなかった自分が話し掛けなかったら、いくら鈍感な手塚だって僕のことを気にしてくれるかもしれない…。
しかし、そんな願いは甘い夢にすぎなかった。
全く生活のリズムが変わらない手塚は、むしろ自分に付きまとわれない事で伸び伸びと生活しているように感じる。
ところが自分はどうだ?授業中だって部活中だって、頭の中はいつも手塚のことばかり。今にも手塚に駆け寄ってしまいそうな自分を押し留めるので精一杯なのだ。
そんな情緒不安定な僕を心配した英二は、大石との時間を減らしてまで側にいてくれる。
「大石にもたまにはヤキモチ妬いてもらわなきゃね!」などと明るく振舞う英二だが、一人の時はそっと大石の姿を探している事を知っている。
全て終わって落ち着いたら、大石に全てを話して誤解を解かなければ…。英二まで巻き込むわけにはいかないから。
昨晩の手塚からの誘いに、不二は天にも昇る気分だった。
付き合い始めてから初めて、デートの誘いを受けたのだから。
何を着ていこうかとクローゼットの扉を全開にし、洋服を手に取りながら「でも…」と、ふと冷静になる自分がいる。
偶然チケットが余って、勿体無いし他に誘う人が居ないから自分に連絡してきただけかもしれない。だって自分なら手塚の誘いを断らないにきまっているのだ。
そう考え直すと期待に膨らんだ胸は、しゅん…と不安に潰れそうになる。
もう何も信じられない。
手塚から確かな言葉を貰えない限りは。
大好きな手塚の手が自分の髪を梳いてくれても、気持ちが舞い上がることはなかった。
かたや手塚も、不二を抱き寄せながらも始めて感じる途方もない不安に苛まれている。
ついこの前まで、自分の元へ駆け寄ってきては幸せそうに微笑んでいた不二。
ところが今の表情はどうだ。
何か諦めてしまった様な、最後の別れの訪れを待っているかの様な寂しげな微笑。
…最後の思い出にしようとでもいうのだろうか?
髪を梳いてその頬を撫でても、うっすらと微笑みその瞳を閉じて掌に擦り寄ってくるだけ。
あの弾けるような、溢れ出るような幸せそうな笑みは返されない。
(…もう手遅れなのか?)
植物園を出ると、庭園の脇に並ぶベンチに腰掛ける。
結局手塚は何も言い出せず、不安に駆られ、ただ不二の手をきつく握り締めて歩くだけだった。
不二は日頃見る機会のない巨大なサボテンに喜んでいたが、どこか上辺だけのはしゃぎ方なのは鈍い手塚でも気付く程だ。
「366日分の誕生花なんてあるんだね~。初めて知ったよ。2月29日もちゃんとあってよかった!」
植物園で見た誕生花の一覧表について嬉しそうに話す不二は、手塚が買ってきたジュースを子供のように両手で抱えて飲んでいる。
Lサイズの紙コップが汗をかいて脆くなってきた為だろうが、そんな些細な仕草にも手塚の鼓動は鳴り止まない。
綺麗で、可愛い不二。
園内を歩いている間、何人もの男性が不二を振り返っていた。
女性と見間違えている者もいたであろうが、男性と分かった上で見惚れている者も多くいた。
一度意識してしまうと不安で仕方がない。
「手塚の誕生花の花言葉はあんまり当たってないよね。『ひかえめ』はまだしも『地味』は絶対違うもの!」
不二は思い出してクスっと笑う。
「不二の誕生花の花言葉はお前にぴったりだな。『陽気で優しい』か…」
隣に座る不二の腰に手をまわし自分の近くへと引き寄せると、風に吹かれたその髪が肩口で揺れ、きらきらと光を反射する。
いつも穏やかに微笑み、そして自分を見つけた時だけ特別明るく弾けるその笑顔。
無くす訳にはいかない。
二人はそれぞれの不安を押し隠すように午後を過ごし、気付くと日は大分傾いてきている。
無理にはしゃぐ不二の姿に、いよいよ不安が隠しきれなくなった手塚は決意を固めた。
不二は今日を最後にしようとしている。
今まで不二を思いやらない冷たい態度をとっていた自分を許してもらえるか分からないが、今日で終わりになんて出来ない。
自分の気持ちをしっかり伝えて、考え直してもらうのだ。
もし許してくれなくても、今度は自分が追いかければいい。
いつも振り向くと不二笑顔があったように、今度は自分が不二を追いかけるのだ。
「不二、観覧車に乗らないか?」
オレンジに染まり始めた空を眺めていた不二は、手塚の提案にからかう様な笑みをもらす。
「へー。手塚にしては随分ロマンチックなこと言うんだね」
「まあ、たまにはな」
そう言って不二の手を取り歩き始めた手塚だが、本当の所そんなロマンチックな理由ではなかった。
怖気づいてなかなか話すタイミングが掴めない自分に、タイムリミットを課したのだ。
扉が閉まって1周するまでの十数分の間に、不二に告白をしようと。
優しい不二に甘えて、必要なことを何も言わずに来てしまった。
今日からちゃんと恋人同士として向き合っていくために…。
係員の手で扉が閉められると、西陽の射す観覧車に二人きりになる。
先ほどまで聞こえていた周りのざわめきが遮断され、沈黙のなか自分の鼓動だけが響きわたっている気さえする。
緊張のため掌に汗をかいているのに気付くが、そんなことに構っている暇はないのだ。
タイムリミットは約10分。
手塚の落ち着きの無さに不二は心配そうにその顔を覗き込む。
「大丈夫?高いところ苦手だった?」
登山が趣味の手塚のこと。まさかそんなことも無いと思ったが他に理由が思いつかないのだ。
「気分悪い?」
額に光る汗を拭ってあげようと、ハンカチを持って向かいに座る手塚に近づくと…。
「!?」
伸ばした腕をきつく掴まれ、思い切り引き寄せられる。
手塚は不二を自分の膝に抱き上げ、その小柄な体を包み込むように抱きしめた。
そして、消え入りそうな苦しげな声で囁く。
「…好きなんだっ!俺から離れていかないでくれ…!」
あまりにきつく抱きしめているために、不二の表情を見ることはできない。
この時とばかりに、手塚は今まで言えないでいたことを打ち明ける。
「いつもお前に甘えて…。きっと、好きでいてもらえることを当たり前だと心のどこかで思っていたんだ。お前が俺と距離を置きはじめてやっとお前の大切さに気付いた…。」
不二は身じろぎもせず、ただされるがままである。
「…不二はきっと今日でこの関係を終わらせようとしているのだろう?今まで自分のしてきた事を許せとは言わない…。でももう一度チャンスをくれないか?本当にお前が好きなんだ」
呆れて声も出ないのだろうか。
不二は無言のままである。
少し震えているだろうか…。
不二の華奢な背を撫でると、肩に温かな雫が落ちるのを感じた。
「不二…?」
ゆっくりとその体を起こし、伏せられている表情を覗き込む。
「…不二…」
俯いたその瞳からポロポロといくつもの涙が転がり落ちる。
そして不二は、それを拭うこともせず顔を上げると真っ直ぐに手塚の目を見つめる。
「ほんと…?本当に僕のことが好き?」
まだ不安が見て取れるその表情に、手塚は力強く頷く。
「ああ、不二が好きなんだ。今度はちゃんと俺から言わせてくれ」
不二の睫に残る涙の雫が、オレンジの光に輝く。
観覧車が頂上まで上ったのだ。
不二の台詞を借りるなら、なんておあつらえ向きなロマンチックなシチュエーションだろう。
「不二、お前が好きだ。俺と付き合ってもらえるか?」
なんてありふれた台詞。
それでも不二は許してくれる気がする。
鈍感な自分でも感激してしまいそうな、オレンジに包まれた告白。
そして、不二は涙をぬぐいながら微笑む。
あの弾けるような笑顔で。
「僕も手塚が大好きだよ!」
そう言って改めて抱き合った二人は、初めてのキスを交わした。
触れるだけの優しいキスを。
翌日のテニスコートは、最近御無沙汰であった大石&菊丸のラブラブ黄金ペアが復活し、以前にも増してピンク色の幸せオーラを漂わせている。
「…何か、前より鬱陶しさ倍増ですね」
先輩を先輩とも思わない越前の発言を「こらっ」と嗜めつつ、桃城も呆れたような声を出す。
「二人とも相当我慢してたみたいだし?まあ平和でいいじゃねーか」
詳しい事情は知らなくても、ここ1カ月4人の様子がおかしかったことは明白である。
主要メンバーに不和が起これば、全国行きだってあやしいものだ。
「まあ、そーっスね。ところであの二人は何なんスか?」
視線の先にはもう一組のカップルが、はにかみながら初々しく会話している。
「…不二先輩、怖いっス…」
手塚に話し掛けられて照れたように俯く不二。今まで見たこともない姿である。
以前までは『鬱陶しそうにする手塚に纏わりつく不二』といったイメージだったが、今朝はお互いの目が合っただけで、指先が触れただけで頬を染める(不二のみ)といった始末。
「…不二先輩、実は純情だったみたいな?」
おおまかな成り行きを知っている桃城は、思わず感心する。
「愛される喜びを知ってしまった…ってか?」
にやにやと納得顔で頷く桃城を「先輩キモい」と一蹴すると、越前はすたすたとコートに入っていく。
「お…お前!先輩に向かってキモいとは何だ!!」
大好きな後輩に「キモい」と言われても、健気にその背中を追いかける桃城。
こちらの恋もまた、前途多難のようである。
ぞろぞろとレギュラーメンバーが集まると、朝練の開始である。
それぞれの不安が解消し、愛情を確かめ合った今突き進むのは全国制覇のみ。
「手塚、今日も頑張ろうね」
「ああ、そうだな」
自分の横に戻ってきた弾けるような笑顔に、手塚も珍しく笑顔を零した。
長ったるい話にお付き合いいただきありがとうございます。
以前に書いて放ってあったものを手直ししてアップしました。
今では書くこともなくなった大菊…。ある意味新鮮です。
■R-18作品、猫化・女体等のパラレルがオープンに並び、CPもかなり節操なく多岐にわたります。表題に「CP」や「R-18」など注意を明記しておりますので、必ずご確認の上18歳未満の方、苦手なCPのある方は避けてお読みください。また、お読みになる際は「自己責任」でお願い致します。気分を害する恐れがあります…!
これらに関する苦情の拍手コメントはスルーさせて頂きますのでご了承ください。
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