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前日アップ済み「言葉にして 1」の続きです。
翌日、手塚が遊園地の入り口ゲートへ到着すると、既に不二・大石・菊丸の3人は揃っており、不二と英二が楽しそうにおしゃべりする横で大石がニコニコと相槌を打っている。時間に正確な不二と大石が先に来ているのは想定内として、菊丸が10分前に到着している事に少し驚きつつも慌てて駆け寄った。
「すまない。最後だったようだな」
「大丈夫だにゃ~。まだ時間前だよん」
遊園地が大好きだという菊丸は、今にも駈け出しそうな勢いで足踏みをしている。園内では別行動をする予定だが、挨拶くらいはと待っていてくれたらしい。
「悪かったな待たせて。さあ大石、菊丸と行ってくれ。待ちきれない様子だからな」
手塚は微笑むと、大石を促した。
「そうか?じゃあ先に入るよ。英二ってばダッシュでジェットコースター乗りに行くって張り切ってるんだ」
今にも崩れそうなデレデレの笑顔で、大石は英二の肩に手をまわす。
学校でなかなか一緒に過ごせずに寂しい思いをしたのは菊丸だけではない。ましてや、自分よりも不二にばかり付いてまわる菊丸に不安を覚えていたのは大石の方なのだ。
じゃあ、と2人が園内に姿を消すと、手塚は不二に向き直った。
「悪かったな遅くなって」
「そんなことないさ、時間前だよ。僕が嬉しくて早く来すぎただけ」
にこっと微笑んで風に揺れる髪を抑える不二の仕草に、手塚はそうと判らないくらい微かに頬を染めた。
昨晩、早速不二に電話をした手塚は柄にも無くひどく緊張し掌に汗をかいていた。
「周助君はいらっしゃいますか」
そう尋ねた声も、きっといつもより上擦っていたことだろう。
「…君から電話をもらうなんて珍しいね」
どうかしたの?という電話越しの驚いた声。
その時手塚は始めて気が付いた。
そうだ。
いつも話しかけてくるのは不二。
たまにしかしない電話だって、いつも不二から掛けて来た。
部室でチケットを受け取ってからずっと不二との事を考えていたが、手塚は自分の気持ちを言葉に出していないどころか、テニスに関係すること以外で自分から話し掛けたことがなかったのだ。
たまの休みに一緒に勉強する時、街に買い物に出る時も、いつだって不二が誘ってくれて自分は同意するだけだった。
今回、自分は不二を遊園地に誘うのに電話の受話器を前に10分悩んだ。
受話器を手にしてからもなかなか番号を押せなかった。
もしかしたら、明日だと急すぎて断られるかもしれない。
もしかしたら、遊園地の乗り物は苦手かもしれない。
いやそれとも…不二はもう自分の事など興味がないかもしれない…。
たった1回のデートのために、これだけの不安に押しつぶされそうになる。
不二が今まで誘いの電話をくれた時、自分はどう返事した?
「明日はゆっくり過ごす予定だ」
「人ごみはあまり得意ではない」
「弟と行けば良いだろう」
自分は何度そう言って断った?
にこやかでいて意外と押しの強い不二だから、文句を言いつつ出かけた事も多いが、不二がその一言一言に傷ついていないとどうして言える?
「急なのだが、明日遊園地に行かないか?」
素っ気無い手塚の誘いに「喜んで」と嬉しそうな返事をした不二の、電話越しの笑顔を想像した手塚は、今までの自分の言動を一つずつ謝りたい気持ちに駆られた。
「ここは遊園地といっても、植物園も併設されているのだな」
生真面目にパンフレットに目を通す手塚に、不二はクスっと笑みをこぼす。
立派な日本家屋に住む手塚は、厳格な祖父に負けず劣らず堅苦しい。
しかし、その私服は想像を裏切るカッコ良さである。
きっと母親の買ってきた服を文句も言わず着ているのだろうが、品を損なわない程度に色落ちしたジーンズは某有名ブランドのもので、長い脚をより効果的に魅せている。
ジャケットも同じブランドのものであるが、見てわかるような箇所にブランド名をこれ見よがしに付けたデザインではなく、見る人が見ればという箇所にひっそりと刺繍されている。
まあ、これでは若くみられても大学生がいいところか…。
先ほどから大学生やOLと思しきお姉さま方が、ちらちらと手塚のことを見遣っている。
「どうかしたか?」
つい見惚れて足が止まってしまった不二を、2、3歩追い越した手塚が振り返る。
「いや、何でもないよ」
そう言って、いつものそつのない笑顔に戻ると手塚の隣へ駆け寄った。
すると手塚はふと眉を寄せる。
そして、不二の方へ腕を伸ばしたかと思うと…。
「どうしたの!?」
ぐっと力強い腕で不二の肩を抱きよせる。
そして、ここにいろとばかりにその腕を腰にまわし歩き始めたのだ。
「ちょ!手塚どうしたの?あの…」
(こういう恋人同士みたいな事、嫌いだろう…?)
いつもはスキンシップ不足を不満に思う不二だが、いざこんな風に触れられると焦ってしまう。
「…あの~、手塚?」
全く気にせず歩き続ける手塚に、照れくさくなってきた不二がもう一度声をかける。
「何か不都合でもあるか?」
手塚は聞く耳を持たない。
(極端なんだよな~手塚は)
手塚からの初めての愛情表現に戸惑いつつも、うっとりと寄り添ったのだった。
「っあ!見てみて大石!不二と手塚だよん」
こっそり指で指し示す英二を「指差さないの!」と注意しつつ、そっと二人を窺い見る。
「あっちは~植物園かな?さっすが手塚遊園地に来ても一味違うねっ!」
ジェットコースターを堪能して満足げな英二は、手塚の趣味は解らんとばかりに首を振る。
「まあ、いいじゃないか。不二もそういうの嫌いじゃなさそうだし」
そう言う大石に、大きく相槌をうつ。
「そうそう!不二も意外とジジくさいんだにゃ~」
お似合いの二人だにゃ~と、暢気にソフトクリームを味わう英二。
大石はそんな英二に、昨日から気に掛かっていた事を思い切って尋ねた。
「なあ英二。最近俺と一緒に行動するの避けてただろう?いつも不二と一緒で…。どうして?」
決して言い方はキツくないが、言い逃れは許さないよとその目が語っている。
驚いた様に大石を見つめる英二は、その表情にごまかしは効かないと感じたのか、とたんに「ふえ~」っと涙目になる。
「怒った?大石怒っちゃった?」
おろおろと落ち着きを無くす英二に、大石は苦笑する。
「怒ったんじゃないよ。ちょっと寂しかっただけ。理由があるなら教えてもらわないと、俺だって直しようがないだろう?」
しょうがないな…とハンカチを取り出した大石は英二の涙を拭ってやる。
「乾に諭されたんだよ。手塚が不二の事をあまりにも構ってやらないから、ふて腐れた不二が英二を巻き込んで、手塚を焦らせてやろうとしてるんじゃないかってね。英二も最近俺が構ってやらないから、便乗して俺にもヤキモチ妬かせる気じゃないのかってさ。」
そうなの…?と覗き込む大石を、英二はばつが悪そうに上目遣いで見つめ返しつつ、残り少ないソフトクリームのコーンを口に放り込む。
そして覚悟を決めた様に口を開いた。
「乾の言い方じゃ、まるで不二がただのワガママに聞こえていやだにゃ。確かに手塚の気持ちを確かめたいっていうのもあったし、俺だって…大石が構ってくんないからさ、寂しくて…ちょっとは気にしてくれればいいと思ったけど…」
そこまで言うと英二はまたもじもじと言葉をはぐらかす。
「…どうしたの英二?」
「…俺のこと嫌なヤツだって思わないの?大石のこと…試した…みたいなことしたのに」
目線をそらしたままの英二は、デート用におろしたのであろう初めて目にするパーカーの裾を不安げに指先で弄ぶ。
初夏らしい淡い水色のパーカーはとても英二に似合っていて、今日のデートのために部屋中に洋服を並べてコーディネートする姿が目に浮かぶようだ。
そうか…と、大石はぎゅっと拳を握る。
こんなに自分の事が好きだと言ってくれて、こんなに自分とのデートを喜んでくれて、こんなに自分と一緒にいると幸せそうに笑ってくれる英二に…。
(…俺の事を試さないではいられないくらい、不安にさせてしまった)
手塚が悪いわけでも不二が悪いわけでもない。
自分が英二を悲しませたのだ。
「おおいし…?」
返事をくれない大石に、とうとう英二は涙声になる。
「ごめ…なさい。試したりして、ご、めんなさ…。俺のこと、きらいっ…にならないでっ」
パーカーの腕で顔を被い、こぼれる涙を拭う英二。
大石はそんな英二の背後から腕を回し、力任せにその体を持ち上げた。
「!!!!」
あまりの驚きに涙が止まった英二だが、大石はそのまま英二を担いで走りはじめた。
「大石っ、どうしたの!?下ろして!どこ行くのさ」
英二の叫び声に近くの客が何事かと目をむけたが、そんなことはお構いなしに大石は駈けて行く。
どれくらいの距離を走ったのだろう。
途中からは英二もあきらめて、静かにされるがままに運ばれた。
「よしっ!」
大石がやっと足を止めたのは植物園の裏手にある庭園だった。季節の花々が咲き乱れ綺麗に整備された花壇が広がるが、やはりアトラクションや希少価値のある植物が展示された植物園に人が集まるのか、庭園を見学する客はまばらである。
その中でも、より木陰に隠れて目立たないベンチまで引きずられてきた英二は、何が何やらただ呆然とベンチに腰掛ける。
「英二。俺が英二を嫌いになるはずないじゃないか。不安にさせてごめんな」
隣に腰掛けた大石が英二の手を取り、はっきりした口調で告げる。
まだ事態が飲み込めていない英二は、それがさっきの自分の言葉に対する返事だとは気付かなかった。
「…?」
まだきょとんとしている英二に、大石はふっと微笑む。
そして。
「…っあ」
気付くと英二はベンチに仰向けに押し倒されていた。
そして唇を奪われる。
今まで、何度も何度もキスをした。
でも、全然違う。
あんな綿菓子ような、ふんわりとしたキスではなく。
全てを奪い尽くされるような、熱く、激しいキス。
英二は生まれて初めて、熱く狂おしい舌を受け入れる悦びを知った。
「…ァはっ、ぅ…ん」
ぴちゃ…と水音をたて、大石の唇が離れていく。
ぼんやりと霞みかかった頭で、大石の唇へと伸びる煌めく一筋と、その後ろに広がる吸い込まれるような青空を眺める。
大石が空腹が満たされた肉食獣のように満足げな舌なめずりをすると、二人の間に延びた煌めく糸が、ふっ…と消えた。
「…大石の、エッチ…」
とろん…とした瞳で見つめられた大石は、びくっと我にかえる。
「ご、ゴメン!!英二!ほんとゴメン!夢中になっちゃってっ」
がばっと体を起した大石は、下敷きにする形になっていた英二の体を慌てて引き起こす。先ほどの強引さがウソのようにオロオロし、英二の洋服や髪を整えてくれる姿に、英二は思わず抱きついた。
「良かったにゃ~!大石に嫌われてなくてっ」
ひとしきり抱きしめあい、キスの余韻を楽しむと、先ほどの話が途中である事を思い出す。
「そうだ!不二の話をしてたんだにゃ」
どこまで話したっけ?と先ほどの会話を思い出しつつ英二が口を開く。
不二が手塚に告白し付き合いはじめたことを、英二は不二自身から告げられた。
その数ヶ月前、英二が大石に猛アタックして目出度く付き合いはじめたことは隠していなかったから、同じ同志として仲間意識があったのもそうだろうし、何より弱音を吐ける相談相手が欲しいというのもあったのだろう。
なぜなら、英二の事は大好きだけど照れのために付き合うことを躊躇した大石と違い、好きかどうか自分でも解らないと言う手塚に対し、それでも構わないからと押し切って付き合い始めたというのだ。
案の定、自分が想うほどには返ってこない手塚の気持ちに、焦り苛立ち不安になった不二は、少しずつ英二にその虚しさをこぼす様になっていった。
「不二は人に弱みなんて見せないタイプなのに、すっごく不安だったんだにゃ~。でもそうなる事は予想して自分で始めた関係だし、手塚にすねて甘えることが出来なかったんだって」
たまには強引に手塚を誘い買い物に連れ出したりしても、結局家に帰れば(手塚には迷惑だったのかな…)と自己嫌悪に陥ったりする。
電話をするのも、遊びに誘うのも全部自分から。
「ねえ英二。手塚ってばね自分から僕に話し掛ける時って、テニスがらみの話しかしないんだよ?そんなのって友達以下だよね…」
そう言って寂しそうに微笑む不二に、英二は何と言葉を返していいのか解らなかった。
「不二ってちょっとイジワルで、腹黒っぽく見られるでしょ?う~ん確かにそういう所あるし、人をからかって遊んだりするけど…。でもね、手塚との事に限っていえば全然違うんだにゃー。乾みたいに、不二が恋愛についても計算高いんじゃないかと思う人もいるだろうけどそれは違うの!もっとワガママ言えばいいのにって感じるくらい」
俺みたいに…。そうつぶやいて英二は大石の手を握る。
「そうだね、恋人のワガママなんて恋愛のスパイスみたいなものだ。かわいいものさ」
そう言って微笑む大石に、そうなの?と英二は甘えて尋ねる。
「かわいいさ。手塚はちょっとその辺疎いところあるけど、気付いたら一途な男だと思うよ?何より嫌いならとっくに別れてるだろう?礼儀を重んじるあいつの事だし」
だといいけど…と、英二は言葉を濁す。
「…何か気になることでも?」
今回の『手塚&大石を焦らせてやろう計画』は、乾が想像する程の腹黒さはなかったとしても、ある意味もっと質の悪い賭けだったのだ。
「不二ね、今回手塚が気持ちを告げてくれないようなら、諦めて別れるって」
英二は先日の不二との会話を思い出す。
「ねえ、英二辛い食べ物好き?」
「嫌いだにゃ~。不二の舌は絶対おかしいんだにゃっ!」
「じゃあさ、僕が一生のお願いだから辛い食べ物好きになってってお願いしたら、どうする?」
「…ごめんなさいする。不二のお願いでも辛いものはダメ」
腕で大きく目の前に×印をつくる英二に、プッと噴出しつつも不二はまた寂しそうに微笑む
「だよね、嫌いなものを好きになってくださいってお願いしたって、ムリなものは無理なんだ…。手塚にそんな無理強いはできないよね」
「不二…?」
大石に話しつつ、その時の不二の寂しそうな表情が思い出され、英二は自分が泣き出しそうになる。
「一概に食べ物の話とは比較できないと思うけど、それくらいに不二が思いつめてるっていうのは確かだね」
どうにかならないかと涙目で訴える英二に、大石はう~んと唸り腕を組む。
「ただ今回運良く遊園地のチケットを手に入れた手塚が不二を誘ったんだから、上手く行くんじゃないか?なにより手塚は自分の気持ちを不二に伝えていない事を気にしていたくらいだから、好きなのは確かだろう」
少しほっとしたように微笑むと、英二は大石の肩にこてっと寄りかかる。
「不二にもこんな幸せな気持ちを知ってもらいたいにゃ~」
気持ちよさそうに瞳を閉じる英二の首筋を、猫をあやす様に撫でてやる。
そして、偶然にもプレゼントをくれた桃城に感謝するのだ。
「違うよ?」
そんな大石の感謝の言葉に英二は小首を傾げる。
「遊園地のチケットは偶然じゃないんだにゃ。」
「!!!」
驚く大石を尻目に英二は手柄を自慢するかのように胸をはる。
「あれは俺が、桃に頼んだの!桃の親戚に遊園地のチケットくれる人がいるのは知ってたから、俺が桃にお願いしてもらったんだ」
にぱっと笑う英二に思わず大石は縋るように質問する。
「それは、不二に頼まれたからだよな…?」
「だから違うってば。俺と桃の秘密なんだにゃ。不二にはナイショ!」
言っちゃダメだよ、とばかりに人差し指を唇にあててナイショのポーズをする。
そんな英二に、大石が最後の質問を投げかける。
「桃は厚意で協力してくれたの…?」
口の端をひくひくとさせながら質問する大石を不思議そうに眺めながら、
「おチビの『転寝、わき腹チラリのセクシー写真』と引き換えなんだにゃ!桃のヤツなかなかおチビを落とせなくて欲求不満児なのだ~。ネガもプレゼントするよって言ったら、手塚にチケットを手渡すところまで引き受けてくれたんだ!良い後輩!」
でもこんなに上手く行くとは思わなかったにゃ~。と自分の功績に満足げな英二を横目に大石はがっくりと肩を落とす。
(ジーザス!乾の予想した腹黒の正体は、自分の愛する人でした…!)
To be continued…
明日で完結させます。
■R-18作品、猫化・女体等のパラレルがオープンに並び、CPもかなり節操なく多岐にわたります。表題に「CP」や「R-18」など注意を明記しておりますので、必ずご確認の上18歳未満の方、苦手なCPのある方は避けてお読みください。また、お読みになる際は「自己責任」でお願い致します。気分を害する恐れがあります…!
これらに関する苦情の拍手コメントはスルーさせて頂きますのでご了承ください。
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