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題名通り、以前書いた監禁シリーズ第1話のボツ原稿です。

何でボツにしたかって言うと、あまりに題名を裏切って二人がラブラブになってしまい…(汗)。
このままじゃシリーズにならん!と泣く泣くボツに。
思いつきのまま、キャラが動くまま書くからこうなります。反省。

もうひとつの監禁(千×神)

「お疲れ」
「ああ、また明日」
夕暮れの分かれ道で深司に手を振る。
深司は相変わらずの涼しい表情で小さく手を上げた。
まったくタフというかただのポーカーフェイスか。俺はこんなにへとへとなのを隠せないのに…。
同じ練習してるのに、やっぱり俺の方が体力ないのかな?身長も体重も大して変わらないんだけどなぁ。
「もう少し筋トレ増やすかな…」
独り言ちながら右手で力こぶを作ってみせる。学ラン着たままだと分かりにくいけど、結構ついてるんだぜ。
「さ、夕飯食べたらジョギングだ!」
肩から落ちた鞄を掛け直し、あと100メートルもない家まで走ろうとアスファルトを蹴る。
その時、急に後ろの空き地から人が飛び出してくる音がした。
振り返ろうとした瞬間、急に目の前が真っ暗になる。
「…わっ!?」
…何!?
何か柔らかい布みたいので顔を覆われて、強く後ろに引かれる。
「ちょっ!」
このままじゃ倒れる!
咄嗟に荷物を手放し受身を取ろうとするけれど、俺の背中はとすん…と受け止められた。
この感触は、確かに人の胸だと思うんだ…。
「…誰?」
恐々聞いても、気配がするだけで声はしない。小石を踏む音に車が停車する音。気配からすると3人くらいいそうだ。振り上げようとした腕を、やっぱり下ろす。
相手が一人なら抗えば何とかなるかもしれないけど、1対3じゃ絶対無理。
誘拐、恐喝、暴行…あらゆる嫌な言葉が頭を駆け巡る。
…殺人?
無いなんて言い切れない。行き着いた考えにブルリと身体が震える。
「いい子だね、神尾くん。大人しくしてたら何もしないから…」
「…え?」
俺の名を呼ぶその声。俺の名を知ってる奴なら悪戯かと思って肩の力を抜いた。
「一体何のつもりだよ」
ほーっと息を吐きながら尋ねても、その声はクスクス笑うだけだ。
「ねえ、これ外していい?」
顔を覆う布に手を掛けようとすると、もう一人にそれを止められる。
「目的地に着くまでこのまま我慢して?」
「なっ?」
…この声は聞き覚えのある声。
「…越前?」
確信を持てずに尋ねると、しまったと言いたげな舌打ちが聞こえる。
「ほーら、君がしゃべったらバレるって言ったろ?」
布を覆う手の持ち主が、楽しそうに笑いながら言った。
…あれ?この声も知ってる。もしかして…。
「…千石、さん?」
「あれ?覚えててくれてたんだ」
なんて能天気な声。いったいこんな悪戯して何だって言うんだ。
俺はムッとしながら今度こそ本当に越前の腕を払い、千石さんの胸から抜け出ると顔を覆った布を外した。
「何のお遊びっスか?誘拐ごっこにしちゃお粗末ですね?」
嫌味で言ったのに、二人は顔を見合わせてなるほど、と頷いた
「そーっすよ千石さん。誰だかバレてんならもう顔隠したって仕方ないじゃないっすか」
「それもそーだ。やっぱり誘拐なんて上手く行くもんじゃないねェ」
この二人は何を言っているのか。まるで世間話をするみたいに誘拐だなんて…。
「ま、いーや。俺としては神尾くんを連れて行ければ問題ないんだから」
「そーっすね。じゃあ」
二人は急に俺の腕を片方ずつ取ると、近くに止めてあった車に引っ張って行く。
「…な、何だよ!?どこ行くんだよ!?」
なんだか二人の笑いが不気味で、俺は車に乗るのを躊躇する。だってこの車がまた黒塗りの只者でない感じなんだよ。
「…抵抗すると、腕折るよ?」
「!?」
にっこり笑って俺の右手をあらぬ方向に曲げようとする千石さん。
「な…」
悪戯か、本気か、さっきまでは判断つかなくてあまり邪険にもできなかったけれど、この瞳は本気だってわかる。
「やめっ!」
慌てて逃げようとした時はもう遅かった。
俺は二人がかりで後部座席に引き込まれた。

1時間もなかっただろうか。そんなに長くない時間走った車は、静かに止まると両方の扉が開かれる。真黒なスモークを張られた窓からは何も見えなかったので、そんなに遠くない場所だという事しか分からない。
俺は左隣りに座っていた越前の後に続いて車を降りる。もし逃げるなら、自分より大きな千石さんを相手にするより身体の小さな越前の方が有利だと思ったから。
でも、砂利敷きの駐車場に降りて周りを見渡した途端、逃げ出すのは無理だと悟った。
大きな邸宅というより城のような建物の横にあるこの駐車場から見渡すと、敷地を囲う塀が何処まで続いてるのか確認できないのだ。ここいら一帯がこの屋敷の持ち主の土地のようだ。
「神尾くん行くよ?」
運転をしていた真っ黒なスーツにサングラスの大男の後に続いて、千石さんが歩き出す。その後に俺と越前が付いていく。
「越前、これは何なんだよ?」
まったく深刻さの窺えない越前に小さな声で聞くと、案の定緊迫感の無い返事が返ってくる。
「楽しいことするだけだから安心しなよ。別に本当の誘拐とかじゃないしね。そもそもこんな屋敷持ってる奴が営利誘拐なんておかしいっしょ?」
「そりゃそうだ。ウチが金恵んで欲しいくらいのお屋敷じゃねーか」
もしかしたら悪趣味なゲームくらいで済むのかもしれない。暢気な越前の表情に少しだけ気持ちが楽になる。
「今更隠す必要もないから言っとくけど、この屋敷は跡部さんの持ち物ね」
「跡部!?氷帝の!?」
「そう、氷帝の。別に跡部さんと試合するとかそんなんじゃないんだけどね、ただ場所を貸してくれただけ」
「…場所?一体こんな城みたいな所で何するつもりだよ?ほかに誰か来てるのか?」
はっきりしない越前の答えにイライラしてくる。
「もったいぶるなよ」
「まーまー、落ち着いて。何をするかは後のお楽しみ。メンバーは後で海堂先輩が来る予定だよ。といっても神尾さんと会う事はないと思うけど」
「…ハァ?」
海堂が来るっていうからやっぱりテニスかと思えば、俺とは会わないときた。何がなんだかさっぱりだ。
「…も、いーや。お前言う気ないみたいだし」
疲れて溜息をついたら、越前がニヤリと俺を見上げる。
「あ、やっと分かった?」
…ムカツク野郎だ。

おおきな両開きの扉を開くと、そこは俺の家が丸々入ってしまうんじゃないかっていう玄関ホールだった。真正面から続くゆるやかな螺旋階段。吹き抜けの天井を見上げれば、えらい上の方でシャンデリアが瞬いていた。あれが落ちてきたら一発で死ぬな。…そんなバカみたいなことを考える。
「よう、神尾久しぶりじゃねーか」
ホールの奥の扉が開くと、全国大会に見かけた以来の跡部が歩いてくる。例の大会で坊主になった髪は少し伸びて、軽く立ち上げているからとても中学生には見えない。どっかのファッション雑誌から抜け出てきたみたいに絵になるのが腹立たしい。
「どーも、お久しぶりです」
初めてあったときから感じ悪いなーって思ってたから、あいさつもつっけんどんになる。しかも何だか分からないで連れてこられたんだ。
「おいおい、そんな目で睨むなよ。今回のことは俺が首謀者じゃないぜ?俺は場所と車を提供しただけだ。あとここでの生活もな。不自由はしないから安心しろ」
「…生活?」
てっきり跡部のお祭り騒ぎに巻き込まれるんだと思ってたから、その言葉に首を傾げる。
「おい千石。まだ話してないのか?」
「んー?そりゃそうだよ。言ったらここまで来てくれないでしょ」
「何だよ、早速越前の面がわれたって言うから全部話したんだと思ってたぜ」
落ち着いてた怯えが少しずつよみがえる。やっぱり何か変だこいつら。
内容言ったら俺がここまで付いてこなかっただろうってことは、知ったら逃げるような内容って事か?
やっぱり、車に引き込まれる時の俺の勘が正しかったのかもしれない。さっき逃げられないと確信したばかりなのに、自然と足が後ずさる。
「ああ、神尾。ウチの外塀には電流が流れてるからな、無茶すんなよ」
「!?」
跡部の言葉にいよいよ身の危険を感じる。
「…俺をこんな所に閉じ込めたって、何にも出ねーよ」
カラカラに乾ききった喉からは、擦れたような声しか出ない。
「まあ、何が出るかはこれからのお楽しみだ。千石の腕しだいだけどな。なあ?」
挑発するような跡部の言葉に、千石さんは参ったなぁと頭を掻く。
「じゃあ、行こうか神尾くん」
「…あ」
躊躇う俺の手を取ると、千石さんは力強く引いて階段を上がっていく。
後ろを見下ろすと、跡部と越前が愉しそうに見送っていた。

静かに扉が閉められると、オートロックが掛かる音がする。何だかホテルみたいだ。
実際部屋の中もリゾートホテルのような作りで、スイートとまではいかないけれど、セミスイートくらいって言えばいいんだろうか。ぱっと見3つくらいの部屋がありそうだ。間にはドアがなく、隣のベッドルームがチラリと見える。
玄関ホールは螺旋階段やシャンデリアでアンティークな雰囲気だったけれど、ここは最近手が加えられたらしく都会的な感じがする。
大きな窓からはもう暮れかけた空が見え、黒く縁取られた木々の陰には鳥の群れがやってきたのが見える。
「…ここ、どこなんですか?東京じゃないの?」
「んーそうだね。一応東京だよ。かなり埼玉に近いけど」
「何市ですか?」
「それは、秘密。それに知ったところで逃げられないのはさっき分かったでしょ?」
テーブルの籠に盛られたフルーツの中からりんごを掴むと、千石さんは放って弄びながら答える。
「…何が目的なんですか?」
メンバーからして金目当てじゃないことなんてはっきりしている。もう焦らされるのは嫌だ。
「目的ねェ。聞きたい?」
「はい」
俺は躊躇うことなく返事する。
「そ。それじゃ待っててね」
それだけ言うと、千石さんは隣のベッドルームへ入っていった。
一人きりになった部屋はいやに広く感じて、何する気かわからないような千石さんでも、いないよりはまだマシだなって思っちゃう。
待てと言われたから、そんなことを考えつつ素直に待ってたら、ちょっとして帰ってきた千石さんに大笑いされる。
「ハハっ!普通無駄だと分かってもドアを開けて外へ出ようとか試してみない?」
「…ああ、そっか」
腹を抱えて笑う千石さんに言われて、初めて気づいた。
「神尾くんは本当に素直で可愛いね…」
笑いすぎて目じりに浮かんだ涙を拭いながら、目の前まで歩み寄る千石さん。
すっかり日も沈んで部屋の明かりも付けてないから、雰囲気で笑ってるかなって分かるだけで、手元なんかははっきりと見えなかった。
「そんな馬鹿正直な君が大好きだよ…」
千石さんが俺の腕を取ったかと思った途端。
「…え?」
その両手首に手錠がはめられていた。

「やだ!外してよ!」
必死に両手を開いてみたり歯で噛み付いてみたりするけれど、当然手錠はビクともしない。
色々試してみても手首に出来た傷がちりちり痛むだけで、少しも壊れる気配はなかった。まさか、本物なんてことないよな…?
しばらくそんな俺を見つめていた千石さんは、俺が大人しくなったのを見ると手を引き椅子に腰掛けさせる。
「何なんだよ!何すんだよ!?」
そしてキャビネットから救急箱を取り出し消毒液を手にする。
「なあ、何が目的なの?」
手早く手当をする千石さんの動きを呆然と見つめながら、俺はまた尋ねる。何度聞いても誰も教えてくれなかった理由を。
千石さんは手を休めずに、何てことないみたいに俺の質問に答えた。
「何をする…か。んーと同棲?」
「はあ!?」
「この部屋でね、5日間だけ一緒に過ごすんだ。平日俺は学校行くけど、神尾くんはいい子でお留守番ね?」
最後に包帯を巻き終えると、その手が優しく俺の手首を包んだ。
「もう、こんなことしないで?そしたら足枷は使わないから」
「…足枷」
手錠だけでなくそんなものまで用意しているのか。もう、俺みたいな子供の抵抗じゃどうにもならないって気がする。
「…ただここで生活するだけじゃ、ないんだろ?」
俺だって、同居と同棲が違うものなんだってことくらい分かる。俺は男だけど、ここまでする千石さんたちにそんな常識は通じないんだろう。
…そういえば越前はどうしたんだろう?海堂が来る予定ということは、俺と同じ目に遭うということなんだろうか?
「千石さん、さっき越前が海堂も来るって…」
前に跪いたまま、俺の両手を撫で続ける千石さんは素っ気無く答える。
「ああ、越前くんが連れてくるらしいよ?今跡部くんと向かってる」
「そんな、じゃあ…」
「そ。もう数時間もしたら来るんじゃない?でも神尾くんはこの部屋から出られないから、会えないけどね」
その言葉に、ようやくさっきの越前の言っていた意味が分かった。そりゃ会えるはずないだろう。俺たち二人とも別々の部屋のに閉じ込められるんだから。
「何でこんなことを…?」
仮に千石さんが俺を、越前が海堂を好きとしよう。
でもどうしてそこに跡部が現れるんだ?今回の件って跡部がいなかったら起こらなかったと思うんだ。だってこんな部屋を用意できる中学生なんていないし、車だってそうだ。
ようやく落ちついて考えが働きだした俺の頬を、千石さんは両手で包み込み嬉しそうに笑う。
「神尾くんの真剣な表情ってすっごく可愛い。俺ね、神尾君との試合中に君に惚れたんだよ?負けたのがその所為だとは言わないけどね」
…当然だ。何言ってるんだこの人は。真剣勝負に最中にそんなこと考えてたなんて。
「千石さん!ふざけた事言ってないで何で跡部がここまでしたのかを教えてください!」
ふざけてないよ…と困ったように笑いながらも、記憶を辿るようにして千石さんは話し始める。
「えっとー、全国大会が終わった後で氷帝メンバーと青学の何人かにストリートテニスコートで出くわしたんだよ。大人数になっちゃったからコートの順番待ちしてる間にちょっとした賭けをしたんだよね。そしたら俺と越前くんが勝っちゃって…」
「それで、今回のことを頼んだの?」
「うん、そう。最初はね神尾くんとプライベートで会ってみたいんだって話しただけなんだけど、越前くんが入ったらだんだん話しが大きくなっちゃって…」
なんて馬鹿馬鹿しい始まりなんだ。俺は呆れて物も言えない。
「跡部くん、元々お祭り騒ぎ好きだろう?越前くんが上手く煽ったんだよ『好きな人を1週間だけ監禁したいんだ、それくらい簡単だろ?跡部さんなら』って感じでね」
いくらなんでも悪乗りしすぎだろう…。でもきっと、跡部は面白そうだから越前に煽られた振りをしたんだろう。それくらいのことはお見通しな気がする、あの男は。
「結局跡部くんの都合で5日間になったけど、俺としては何だかタナボタな感じで。でも今回を逃したら、神尾くんとはお近づきになれなかったかもしれないからね。俺も覚悟を決めたんだ」
「そんな覚悟決めてないで、直接会いに来てくれたら良かったじゃないですか…」
「うーん、でもやっぱり好きな人と5日間も二人きりで暮らせるのは物凄い魅力だよ?…男としては」
「…千石さん」
やっぱり千石さんは、俺をどうこうするつもりなんだろうか…?

足枷まで付けられたら敵わないから、結局俺は言われるまま大人しくしている。
最初のうちは、千石さんが近づく度に触られたらどうしようってビクビクしてたけど、本人は全くそんなつもりないみたいに普通に寛いでいるから、次第に俺まで寛いでしまった。
テレビが見やすく配置されたソファに隣り合わせて座り、毎週欠かさず見ているテレビ番組を楽しむ。流れるハプニング映像やら珍事件のVTRを見て、驚いて身を竦めたり笑い合ったり。
途中で玄関ホールが騒がしくなり、急に現実に引き戻されたみたいに俺がビクッとしたら、千石さんは俺の肩に手を回して「大丈夫だよ」って囁いた。
何にも大丈夫なわけないのに。
俺は恐怖を忘れたくて、感覚の一部が麻痺してしまったのかもしれない。
だって、同じ運命なら出来るだけ気持ちは楽でありたいじゃないか。そう思ったら、こうして過ごすのが1番な気がした。
「お腹すいた?」
テレビがきりの良い所で千石さんが訪ねる。そういえば練習が終わってすぐここへ連れて来られたから何も口にしていなかった。
「…すいた。あと喉かわいた」
俺が言うと千石さんは微笑んで立ち上がる。そして壁に据えられた受話器を取ると何か話している。
「すぐに届くからね」
いわゆるルームサービスってことだろうか。子供の悪戯にここまで金を惜しまない跡部の感覚は呆れるを通り越して感心してしまう。
「お坊ちゃまの考えることは理解できねェな…」
実は同感らしい千石さんも、俺のボヤキに「まったくね…」と苦笑いしてた。

「はい、あーんして?」
スプーンに盛られたリゾットを俺の口まで運ぶ千石さん。本当はもっと色々な料理があって、コース料理なんかも用意できたらしいんだけど、この手じゃ無理なので食べさせやすいメニューを選んだらしい。
お腹がすいてれば何でも美味しいし、それ以上にここの料理は本当に注文を受けてからシェフが作っているらしく腕も一流らしい。俺は自分の置かれた状況も忘れて、存分に楽しんでしまった。
「ごちそうさまでした」
手錠の掛けられた手を合わせて言うと、千石さんは良く出来ましたとでもいうように頭を撫でる。
俺はくすぐったい気持ちで撫でられながら、合わせた自分の両手を見つめる。
今更だけど一つ変だなって思ったことがある。
普通逃がす気がないなら、手錠は後ろ手につけないか?普通って言ったってサスペンスドラマの受け売りだけど。だってこれじゃ、殴ろうと思ったらその辺の花瓶とか掴んで千石さんを攻撃できるよね?
車に連れ込んだ時の千石さんと、この部屋に着いてからの千石さん。
行動の矛盾に少し疑問を覚える。
「神尾くん、どうしたの?お腹でも痛い?」
黙りこくった俺に、千石さんは具合でも悪くなったのかと心配になったらしい。
慌てる姿は、お世辞にも誘拐犯には見えない。
もしかして千石さん、強引な越前と跡部に釣られただけで、引くに引けなくなってるんじゃないかな…?
「ねえ、千石さん。もしかして千石さんはもうこんな事止めたいんじゃないの?」
ストレートに尋ねれば、案の定千石さんは固まってしまった。
…ほらビンゴだ。
「ね、千石さん。ここには俺しかいないし、どっちにしてもこれじゃあ逃げられないんだから全部話してみれば?」
「神尾くん…」
千石さんは、苦笑いを浮かべる。
「俺もね、最初は興奮して舞い上がってさ。今日を凄く楽しみにしてたんだ。神尾くんを車に引き込んだ時はこれから待っているのは神尾くんとの二人っきりの時間なんだって身体が熱くなったよ」
…やはりあの時に感じた恐怖は本物だったらしい。
「でも、こんな状況なのに素直に俺の言うことを聞く神尾くんを見てたらさ、何かこんなことするの嫌だなって思っちゃって。だって、神尾くんは人を疑うって事を知らないんだもん。俺って凄く悪人だなって、切なくなった」
…確かに悪人であることは否定できないよね。現に俺はこうやって閉じ込められてるんだし。
「ねえ神尾くん約束してくれない?俺今から手錠外すから、5日間絶対逃げないって。跡部くんの手前もあるし、越前くんもすごく必死ぽいから裏切れないんだよ。でも、このまま神尾くんに嫌われてしまうのも嫌なんだ…」
うーん、なんて都合のいい考えだろう。他のヤツがそんなこと言ったら「調子いい事言ってんじゃねー」って怒鳴り飛ばしてやるところなんだけど。
千石さんこそあまりに正直すぎて、邪険にしづらいんだよね…。
俺だって出来る限りの自由が欲しいし、やっぱりどうせ同じ状況なら楽しく…って考えれば。
「分かった。絶対逃げない。だから手錠外してくれる?」
「ありがとう、神尾くん」
千石さんは、目じりを下げて微笑んだ。
俺たち二人とも、もの凄くゲンキンなヤツだよね…。

手枷がなくなれば、こんなに快適な部屋は無かった。
だって食べたいものは電話1本でくるし、テレビは見放題。キャビネットを漁ったらプレステも出てきたから散々遊んでしまった。明日は土曜日だから、千石さんも時間気にしなくて平気だしね。折角一緒にいるのに、テニスができないのだけが残念だよな。
ゲームにも飽きて部屋を探検し始めた俺は、見たこともないお風呂に驚いて声を上げた。
「ねえ、千石さん!お風呂場凄いよ」
俺が呼べば、どれどれと千石さんも覗きにくる。
丸くて大きいバスタブにはジャグジーがついており、ガラス張りになった壁からは、綺麗に手入れをされた庭園が見える。ライトアップされたバラが夜空に映えてとても綺麗だ。
「立派だねェ」
千石さんも、広々としたお風呂場に感心している。脱衣所と風呂場がガラスの壁で仕切られてるのがまたカッコいいんだよね。
それにしても、これじゃあ旅行に来たカップルのようだ。
少し照れながら千石さんを見上げれば、多分千石さんも同じことを考えてたんだろう。照れつつも嬉しそうに微笑んだ。
何だか、こんな幸せな顔されるとなぁ。
「…一緒にお風呂入ろっか?」
ちょっと共犯者ちっくな気持ちも相まって、俺は言ってしまった。
一瞬ぽかんとする千石さん。
俺って意外と大胆。

乳白色のお風呂は、この空間を益々現実から遠ざける。
俺は、抱き寄せられるのも自然に受け入れて、その肩に頭を預けた。
決して大柄でない千石さんだけど、その肩はがっしりと骨ばっていて、たった一歳の年齢差をそれ以上に感じさせる。
「本当に神尾くんって不思議だよね」
「え?」
千石さんはくすくす笑ったかと思うと、急に強く引き寄せる。
湯の中で触れあう素肌が、凄く敏感になっているのが自分でも分かる。
「脆そうでいて物凄くタフ。単純そうに見せかけて意外と強か者、みたいな」
「何それ…」
「ま、ここは俺に流されちゃってよ?」
計算しつくした何気なさで、千石さんの指先が俺の腰を滑る。揺らめくお湯は背中まで撫で上げ、ゾクリと快感が走った。
思わず、クン…とぐずるみたいな声が漏れたら、千石さんが激しく抱きしめる。
「…あ、」
奪われる、唇。
「神尾くんてば、そんな声出して…。煽ってくれるね」
煽って?俺のこんな声で煽られるの?

それなら…なんて、思ってしまう。
このままずっと閉じ込めてくれてもいいかな、なんてね。

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はじめに
ようこそお越し下さいました!「ハコニワ‘07」はテニスの王子様、跡宍メインのテキストサイトです。妄想力に任せて好き勝手書き散らしている自己満足サイトですので、下記の点にご注意くださいませ。
■R-18作品、猫化・女体等のパラレルがオープンに並び、CPもかなり節操なく多岐にわたります。表題に「CP」や「R-18」など注意を明記しておりますので、必ずご確認の上18歳未満の方、苦手なCPのある方は避けてお読みください。また、お読みになる際は「自己責任」でお願い致します。気分を害する恐れがあります…!
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